自己破産できない場合
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Contents
- 1 自己破産手続きが開始できないケース
- 2 免責不許可事由とは
- 2.1 財産の隠ぺいがあった場合(1号)
- 2.2 不当な債務負担行為があった場合(2号)
- 2.3 偏頗(へんぱ)行為があった場合(3号)
- 2.4 浪費またはギャンブルや他の射幸行為により財産が減少した場合(4号)
- 2.5 詐欺まがいの借入があった場合(5号)
- 2.6 帳簿上で隠匿行為があった場合(6号)
- 2.7 偽造の債権者名簿提出があった場合(7号)
- 2.8 調査協力業務違反行為があった場合(8号)
- 2.9 管財業務妨害の行為があった場合(9号)
- 2.10 7年以内に免責取得があった場合(10号)
- 2.11 破産法上の義務違反行為があった場合(11号)
- 2.12 大江戸下町法律事務所
- 2.13 最新記事 by 大江戸下町法律事務所 (全て見る)
自己破産手続きが開始できないケース
自己破産をするためには、破産手続開始の原因が裁判所に認められなければなりません。自己破産手続を開始する認可を裁判所から下してもらうためには、
- ①可処分所得を全て支払いに充てても3年以内に返済ができないなど「支払不能」であること
- ②保有している資産を売却しても返済できないなど「債務超過」であること
が必要です。弁護士から債権者に届く債務整理についての受任通知は「支払不能」の事実を裁判所に推定させる「支払停止」にあたります。したがって、自己破産をするためには単に返済が難しいというだけではなく、裁判所の視点でみたときに、「支払不能」であり「債務超過」である必要があるのです。 具体的には、借金の金額が大きすぎて資産を売却しても支払えないという場合や、可処分所得を全て支払いにあてても3年以内に返済できないといったケースが破産手続き開始の原因として認められます。 一方で、可処分所得を全額返済に充当すれば1~2年で返済できてしまうケースや、収入が多く借金(ローンなども含む)の返済に充当できる資金があると認められると自己破産手続は開始できません。 そもそも、自己破産の制度は負債を返済できないと認められた方のための制度です。負債を返済できないと裁判所から認められなければ破産手続の申し立てをしても許可が下りません。 他にも、「破産手続の費用の予納がないとき」(破産法第30条1項の一)、初めから明らかに返済の意思がなく借金を重ねていた場合(破産法第30条1項のニ「不当な目的で破産手続開始の申立てがされたとき」にあたる可能性があるため)は、破産手続の開始は認められません。
免責不許可事由とは
自己破産の手続の結果、債務の返済が免除されることを免責と言います。免責不許可とは自己破産の申し立てを行い、免責許可が不適切だと判断された場合を指します。免責不許可事由とは免責不許可となる事由(原因となる事柄)のことです。 免破産手続そのものは開始することができる場合でも、免責不許可になると債務の免除ができなくなるため、借金の帳消しは不可能になるので、事実上自己破産ができません。破産法第252条の免責不許可事由に該当する事項は免責が許可されない場合の一覧があります。 財産隠しなど不誠実な事由が行われたとき、ギャンブルなどで過大な債務を負ったとき、破産管財人を妨害したとき、前に破産したときから7年以内の自己破産であることなどです。大まかに、破産債権者を害する目的で行われた行為(隠蔽や破損など)、破産法で定められた義務に反する行為、制度や政策との兼ね合い(7年以内の再度の自己破産)の3種類に分けられます。 なお、免責不許可事由があっても、裁判所の裁量で免責が許可されることもあります。しかし、破産法第252条1項の免責不許可事由に該当する事項(全部で11個)があると免責が許可されません。これからご紹介する以下が破産法の免責不許可事由の代表的なものになります。破産法第252条1項1号から11号まで順番に見ていきましょう。 ご自身のケースにおいて、裁判所の裁量を引き出せる可能性があるかどうかは、法律のプロである弁護士・司法書士に尋ねると確実です。以下に、具体的な免責不許可事由をご紹介します。
財産の隠ぺいがあった場合(1号)
「債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。」(破産法252条1項) いわゆる「財産隠し」があると、当然のことながら自己破産はできません。例えば、夫が自己破産手続の直前に自分の財産を妻に譲渡して名義を変え、離婚するケースを考えます。自己破産が完了したらまた結婚生活を続けるつもりでも、財産調査の過程で直前に離婚して財産を分け名義を書き換えた場合は、財産の隠ぺいを疑われます。 全ての離婚が財産隠ぺいであるとはもちろん限りませんが、離婚後の妻側に調査が入り、なぜ自己破産の直前に名義を変更したのかなどを詳しく尋ねられるでしょう。もし「財産の隠ぺい」にあたるとされると、免責不許可になるだけではなく、自己破産の決定も取り消されます。また、実際には財産を隠ぺいするつもりがなくても、財産の隠ぺいとみなされるケースがあり、結果として自己破産できなくなる場合もあります。 自己破産はそもそも返済するための資力がない方のための制度です。財産隠ぺいが悪質なものであれば、詐欺破産罪(破産法第265条)にあたり、刑事裁判にかけられて懲罰を受ける可能性があります。 自己破産は、本当に必要最小限の資産以外は全て手放すことで、債権者に債権の回収を放棄してもらうという制度のため、債権者側にとっては不利な制度でもあります。社会的な公正のためにも、不正に自己破産の制度を使うことがあってはならないのです。うっかり財産の隠ぺいが疑われないためにも、自己破産直前の名義変更は控え、やむを得ない場合はきちんと裁判所に説明をしてください。
不当な債務負担行為があった場合(2号)
「破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと。」(破産法252条2項)「不当な債務負担行為」とは、ヤミ金から高利で借金をしたり、クレジットカードで買った品物を転売して現金化するということを言います。 ミスしがちなのが、クレジットカードの現金化です。一般にはあまり知られていませんが、クレジットカードでの買い物でカード利用代金が引き落とされる前は、購入した物に関してはカード会社に所有権があるため勝手に売却してはいけません。 つまり、クレジットカードで洋服を買ったが、いらなくなったので決済日前に売却して現金を得たというのは、本来であれば違法なことです。クレジットカードで切符を買って金券ショップに転売し、現金を得る場合でも、決済日前に転売することは免責不許可事由の「不要な債務負担行為」にあたる可能性があります。
偏頗(へんぱ)行為があった場合(3号)
「特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。」(破産法252条1項3号) 偏頗行為とは、支払不能のあとに特定の債務者に偏って返済したり、担保を提供することを言います。厳密に言えば、複数から借金をしていれば偏頗行為はほとんどのケースで有りえますし、偏頗行為が存在すれば即ち免責不許可になるかというと、そうでもありません。 知らずに偏頗行為をしがちなのは、友人や知人、親族から借りた分は優先して返してしまうおうと考える場合です。法の下では、友人、知人、家族であったとしても一債権者として、他の債権者と同列の存在なのです。そのため、優先弁済してはいけません。 また、担保を提供するのがなぜいけないのかというと、担保を設定することで現在の債権者の取り分が減ってしまうおそれがあるためです。
浪費またはギャンブルや他の射幸行為により財産が減少した場合(4号)
「浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。」(破産法252条1項4号) 浪費やギャンブルで借金を作ってしまい、自己破産したという話は聞いたことがあるかもしれません。 「浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと」(破産法第252条4号)は免責不許可事由にあたりますが、何が浪費であり、どの程度が著しい財産の減少にあたるのかはまさにケースバイケースですので、一概にギャンブルがもとで借金をしたら自己破産できないとは言えません。
詐欺まがいの借入があった場合(5号)
「破産手続開始の申立てがあった日の一年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に、破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら、当該事実がないと信じさせるため、詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと。」(破産法252条1項5号) 本当は借金の返済が滞っており支払不能になっているのに、借金を事実よりも少なく申告してまた新たにお金を借りる行為です。詐欺まがいの借り入れをしてはいけません。
帳簿上で隠匿行為があった場合(6号)
「業務及び財産の状況に関する帳簿、書類その他の物件を隠滅し、偽造し、又は変造したこと。」(破産法252条1項6号) 帳簿を改ざん、隠すことで財産の隠ぺいを図ろうとする行為です。個人の破産でも有りえますが、どちらかというと会社の破産で有り得るケースです。
偽造の債権者名簿提出があった場合(7号)
「虚偽の債権者名簿(第二百四十八条第五項の規定により債権者名簿とみなされる債権者一覧表を含む。次条第一項第六号において同じ。)を提出したこと。」(破産法252条1項7条) 存在しない債権者の名前を書いたり、陳述書を作る行為です。
調査協力業務違反行為があった場合(8号)
「破産手続において裁判所が行う調査において、説明を拒み、又は虚偽の説明をしたこと。」(破産法252条1項8号) 破産手続の際に、裁判所による調査が入ります。嘘の説明をしたり、説明を拒むなど調査に協力しなければ調査協力義務違反になります。破産法に定める義務を果たせない者は、破産できません。
管財業務妨害の行為があった場合(9号)
「不正の手段により、破産管財人、保全管理人、破産管財人代理又は保全管理人代理の職務を妨害したこと。」(破産法252条1項9号) 破産管財人や保全管理人といった人たちは、破産の際に債権者が被る不利益の調整のために存在します。破産管財人や保全管理人の職務を妨害すると、破産手続が進行しなくなってしまいます。
7年以内に免責取得があった場合(10号)
「次のイからハまでに掲げる事由のいずれかがある場合において、それぞれイからハまでに定める日から七年以内に免責許可の申立てがあったこと。」(破産法252条1項10号) 以前に自己破産したことのある方が気をつけなければいけないポイントです。自己破産は、経済的に再生復帰を図る機会ではありますが、一度機会を与えられた者が更生できず、再度自己破産をして更生を図るということが政策上好ましくないため、このような項目があります。 ただし、自己破産歴のある方の再度の自己破産は全て否定されるわけではなく、裁判所の裁量で自己破産が可能なこともあります。
破産法上の義務違反行為があった場合(11号)
「第四十条第一項第一号、第四十一条又は第二百五十条第二項に規定する義務その他この法律に定める義務に違反したこと。」(破産法252条1項11号) 破産者の調査協力義務(破産法第40条)違反、重要財産開示義務(破産法第41条)違反などがあたります。重要財産とは、「現金,有価証券,預貯金その他裁判所が指定する財産」(破産法第41条)を言います。 このように、免責不許可事由は11個もあるため、一つも当てはまらない方は少ないかもしれません。実際には裁判所の裁量によって、免責不許可事由が存在しても自己破産できるケースは十分ありえます。もし万が一、自己破産の申し立てを行い、免責不許可になった場合は高等裁判所に申し立てをすること(即時抗告)ができます。即時抗告の期限は、免責不許可と決定されてから2週間以内です。即時抗告が受理されると高等裁判所で再審が行われます。 また、ご自身のケースにおいて自己破産が可能かについては、当事務所にて無料相談を承っておりますのでご活用ください。

大江戸下町法律事務所

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